認知症の症状について

認知症は
“予防”の姿勢が何より重要です

認知症の「BPSD(行動・心理症状)」について、「起きてしまった症状にどう対応するか」ということに終始しがちですが、
実は、症状はケアの仕方で予防したり、減らしたりすることができるのです。
つまり、「どれだけ症状をつくらないようにかかわるか」という“予防”の姿勢が何より重要なのです。

認知症の人は、認知レベルは低下しても、喜怒哀楽の感情レベルは最期まで失われないといわれています。ですから、認知症であることの不安や、過去のつらい出来事などを抱えたまま生きているのです。ところが、周囲の人の「認知症の人は何もわからない」「全てを忘れている」などの思い込みや、本人の自制心により、思いを吐き出せずにいます。その苦しい思いがBPSDという形で現れているのではないでしょうか。

私たちはご利用者様に寄り添い、穏やかにお過ごし頂けるようなケアを目指します。

BPSD(行動・心理症状)とは

認知症の「BPSD(行動・心理症状)」は、認知症の人に必ずあるわけではありません。認知症の人には、記憶や時間、場所の認識がつかなくなる「認知症状」(中核症状)があります。これはすべての認知症の人に現れる症状です。それに対して、周囲の人の対応が適切でなかったり、環境が適合していなかったりすると引き起こされるのが「BPSD」です。
また、今までの生活からくるさまざまな要因も「BPSD」の発生に影響します。症状もさまざまで、「ものを盗られた」「夫が浮気している」などと思い込んでしまう「妄想」、見えるはずのないものや聞こえるはずのない音の存在を訴える「幻覚」、攻撃性が抑えられなくなる「暴言・暴力」、入浴や食事などをしたがらない、施設から帰りたいと言って歩き回る「帰宅願望」や「徘徊」などがあります。
それらに共通しているのは、利用者が何らかの「いらだち」や「不快感」を抱いているという点。その原因が何なのかをきちんと把握することが必要です。

介護者のかかわり方
認知症のBPSDにかかわる際に重要なのは、認知症のあるなしではなく、「人としてどう接するか」「気持ちをどう受け止めるか」という姿勢です。その時に目安となるのが、「自分だったらどうしてほしいか」「どんなことをされたら不愉快か」と考えること。それが前提にあればBPSDは起こりにくくなります。
認知症の人にかかわる時、介護者はそういった心構えを常に持つことを忘れないようにすると良いです。

「根拠」を踏まえたプログラムを考える

ぴっぴで行うゲームは、ルールや動きが単純であることが基本です。複雑な動きやルールは判断力や理解力が低下した利用者には難しく、「やりたくない」という気持ちになってしまうからです。やったことのある動きで楽しみながらゲームに参加し、知らず知らずのうちに体を動かせるようなプログラムにします。
また、利用者はゲームに慣れることでその場の雰囲気に慣れ、ほかの利用者や介護者となじみの関係ができて不安が軽減されていきます。
ゲームは「楽しみごと」というだけでなく、その最中にコミュニケーションがあり、体が自然に動き、活動が促される場面があります。このように、ゲームにはさまざまなねらいがあり、それに基づく声かけや雰囲気づくりを重視して行っています。

ぴっぴの主なアクティビティの根拠は以下の通りです。

体操
・活動量を増やし、血液の循環をよくする
・利用者の生活リズムを整える
・利用者のその日の状態をつかむ
ゲーム
・ほかの利用者とコミュニケーションを持つ
・チームでの活動で社会性を維持する
・楽しみながら体を動かし、関節可動域を広げる
・声を出し、嚥下機能を向上させる
・懐かしい歌で昔を回想し、脳を活性化させる
ドライブ、外出、散歩
・非日常的な体験により、心身を活性化する
・活動量を増やす
・季節を感じ、五感を刺激する
習字、絵画、料理等
・指を動かし、 巧緻性を維持する
・集中力を高める
・ほかの利用者との交流を図る
・完成させ、達成感を得る

認知症の具体的なケアについて

①学習療法

音読、計算などの学習を行い、脳機能の改善を図るものです。脳機能活性化プログラムのうち、いわゆる、読み、書きの学習的な内容に重点をおいたプログラムです。
学習療法は、認知症の症状を改善する効果があることが科学的に証明されておりますが、学習を継続し、効果を高めるためには、正しい理解のもとに学習が行われることが必要です。

②音楽療法

音楽療法とは、音楽が持つ様々な力を意図的に利用して、疾病や傷害を回復、改善させる治療療法です。具体的には、音楽を鑑賞したり、歌を歌ったり、楽器を演奏したり、歌に合わせて体を動かしたりします。

音楽は気分を高め、みんなで楽しい時間を共有することができます。そのような効果から、多くの介護施設のレクリエーションで取り入れられていますが、音楽療法ではさらに音楽を意図的・計画的に用いて、心身の改善につなげる点が特徴です。
認知症の人の音楽療法の場合には、グループのメンバーや季節に合った曲選びが重要。「秋なので秋の曲を歌いましょう」「もうすぐ十五夜なのでお月見の曲です」などとその曲を演奏する理由を説明。そのようにして使用者に季節感や時候を感じてもらうことが大切なのです。
なぜならそうすることで、記憶力や判断力の低下により、時間や場所を意識しづらくなっている認知症の人も、「今」「ここ」を感じられるからです。「自分が今、どこにいて、何をしてるか」を把握することで利用者の不安が薄まり、安心して行動できるようになるのです。
また、音楽の演奏に参加することもとても大事です。特に打楽器やバーチャイムなどは失敗が少なく、自尊心を傷つけるおそれが少ないものです。また、認知症の中重度の人であっても参加が可能。集団のなかで役割を果たすことができます。

認知症の人の音楽療法では、歌にまつわる思い出や若い頃の記憶を話し合うことも、とても大事です。懐かしい歌をうたうとその時の思い出がよみがえり、「あるがままの姿」が出やすくなります。
また同じ時代を生きた人と苦しみや喜びを共有することができます。そのことがお互いへの関心を深め、会話がさらに盛り上がるきっかけともなるのです。
さらに、経験を話した利用者にとっては、他者に「わかってもらえた」という思いが得られ、認知症で失われがちな自分の存在意義を取り戻す機会ともなるでしょう。
それが、利用者同士に「なじみの関係」を生み、施設を「居心地のよい場所」「こころのよりどころ」と感じることにもつながります。

③回想法

回想法とは、1963年アメリカの精神科医ロバート・バトラーが”高齢者が過去を思い出す活動の良さ”を発見して始まったものです。高齢者は今までの過去を振り返り、過去に親しみ懐かしむ傾向があるようです。高齢者の今までの体験、人生を大切にし、深く理解し、認め、それをケアの一手法として用いることにより、高齢者本人のQ.O.Lを高めようとするものが、回想法です。

回想法には1対1で行う個人回想法と5〜10人程度で行うグループ回想法があります。認知症の人の場合は、お互いの話に刺激を受けられるグループ回想法のほうが効果的です。

利用者が昔の出来事を思い出すことが、脳の活性化や心の安定につながると思われていますが、目的はそれだけではありません。その人が話す過去の出来事や気持ちを知って、今、必要としているケアに生かすことです。一人一人の思いを尊重したケアに役立てるための、コミュニケーション手段と言い換えてもよいでしょう。

利用者の発言を「こういう性格に違いない」などと自己流に解釈して、決めつけてはいけません。まずは語られた言葉や行動を事実としてありのままに受け止めて寄り添い、理解することが大切なのです。その人の思いに共感し、支持的にかかわろうとする姿勢を日常のケアに反映させることが、よりよいケアにつながってきます。
思い出を引き出す心地よい刺激とコミュニケーションを重ねることで、利用者には安心感や満足感が生まれてきます。継続して行うことで、表情が豊かになったり、情緒が安定したりします。さらには、他者とのかかわりや会話が増えたり服装に気を遣うようになるなど、日常の行動にも変化が現れてくるのです。